娯楽映画の良否は人物設定の深さで決まると思う。ジェームズ・ブリッジス監督「チャイナ・シンドローム」(1979)。

まず訂正しておきますが、月曜日にこの映画を見たとき僕は監督を勘違いしていました。ジェームズ・L・ブルックスと言いましたが、「アーバン・カウボーイ」のジェームズ・ブリッジズでした。ブリッジズはアカデミー賞を取っていないけど、僕の友人たちなら「地球爆破作戦」の脚本家だといえば、アカデミー賞以上の評価を与えるでしょう。

物語は、カリフォルニア南部の原子力発電所を取材したテレビ局の人間が、たまたま事故の場面に遭遇し、カメラマンのリチャード(マイケル・ダグラス)が法律を犯して撮影してしまうというもの。公開当時にスリーマイル島原発事故が起きて、日本公開時には“事故を予言した”ともてはやされました。そんなことで喜ぶ“小学生”は無視しましょう。

僕は2011年の年末にDVDで再見して日記に書きました。そしたら当時は、原発を少しでも擁護すると攻撃するという風潮があり、そのように感じられる書き込みがありました。しかし僕の日記に書き込んで“正義”を主張するよりは、具体的な行動を起こすべきだと僕は述べました。

今も同じで、僕は安全な原発による安価な電力を求めます。安全な原発が存在しないのなら、安価な電力はあきらめます。そして安全かどうかは、コストの問題抜きで議論してもらいたい、ということです。

そんなことより、娯楽映画としての「チャイナ・シンドローム」です。まずテレビ局内で忙しくニュース番組を作り上げている連中が描かれ、視聴率稼ぎに躍起になっている。そして動物園からトラの誕生日パーティーをリポートするキンバリー(ジェーン・フォンダ)は、もっと硬派なニュースを扱いたいという野心があります。このあたりの、てきぱきとした展開がいい。

そんなキンバリーが原発で事故を目撃する。こういうサスペンスが魅力ある映画です。手に汗握る危機管理体制の対応。そしてなんと、メーターの針がはり付いていたという、とても単純な誤解。僕は録音スタジオにいて、VUメーターがはり付いた事態を何度も目撃していたので、この映画の展開はよく分かりました。

そこから、問題がいくつかに分かれます。フリーランスのカメラマンであるリチャードは、そのフィルムを原発反対派の学者に見せる。すると学者は“私の思い過ごしかもしれないが、君たちは生きていてラッキーだったと言いたい。それと同じことを、南カリフォルニアに住む全員に言いたい。 I may be wrong, but Id say youre lucky to be alive. For that matter, I think we might say the same for the rest of Southern California.”と述べるわけです。

この時点で、リチャードは反原発はと親しいことが分かり、キンバリーにはその気持ちがないと明確になる。だからこそキンバリーは、リチャードが会社の上司たちに反論するのを止め立てしたわけです。リチャードはキンバリーに“テーブルの下で俺を蹴るな!Dont kick me under the table.”と述べます。実際にジェーン・フォンダが蹴ったかどうかは、画面上ではさだかではありませんが。

そして現場責任者のゴデル(ジャック・レモン)は、たまたま酒場でであったキンバリーに好意を抱き、自分が感じた異常を話してしまいます。キンバリーは、マスコミの常として親しみを持たせようとしただけですが。それを察知した会社側(工事業者の保安部かも)は、証拠写真を運ぼうとしたキンバリーの仲間を車もろとも崖から落とし、写真を取り戻します。

そしてゴデルも追っ手に追われるのですが、彼は何とか原発の施設に逃げ込む。ゴデルの車がBMWで、崖から落とされた車が普通のアメ車というあたり、細かい芸当だと思いました(笑)。なおキンバリーはワーゲンのラビット(日本のゴルフ?)に乗っているわけで、トランプ大統領が見たら、“外国車に乗っているのは悪人だ”と言うのではないかな。

さらにゴデルは海軍で原子力潜水艦の艦長だったそうで、現場で25年勤務しながら天下りのゴデルに命令されているテッド(ウィルフォード・ブリムリー、写真3右)は、自分がスケープゴートにされるのではと心配しています。この描写があるから、彼はゴデルに逆らって会社側に立つわけです。

しかしSWATが突入してテッドにも事態が飲み込めたとき、テッドは“ゴデルが英雄だったといずれ分かる”とテレビに語りますが、時すでに遅し。キンバリーは特ダネを得たから念願の硬派なニュースに進めるだろうけど、ゴデルは死んでいます。そしてフリーのリチャードは、ますます仕事できる範囲が少なくなったことでしょう。

こういう、登場人物の立ち位置の立体感というものが、娯楽映画の基本だと僕は思います。この「チャイナ・シンドローム」は、社会派映画なんかではなく、カーチェイスありの会社と人間の丁々発止のやり取りがある娯楽ドラマです。

それにしてもさっき書いたSWATに“特別機動部隊”と出し、気圧を“ミリバール”で表記するなんて、いつの時代の字幕なんでしょうね。こういう形で“公開時の字幕をそのままつけました”と宣伝し、それを付加価値だと思わせるのは、僕にとってこの映画の原発側の文言と同じに感じられます。